2012年5月5日土曜日

第3節 海外の食育に関連する状況、国際交流の推進等|第7章|食育白書〔本編〕


第3節 海外の食育に関連する状況、国際交流の推進等|第7章|食育白書〔本編〕

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第3節 海外の食育に関連する状況、国際交流の推進等

1 海外の食育に関連する状況

食育はあらゆる世代の人々に必要なものであるが、子どもたちに対する食育は、生涯にわたる健全な心と身体を培い豊かな人間性をはぐくんでいく基礎となるものである。諸外国においても子どもを対象とした食育に関連する各種取組が実施されている。

米国における状況

●チーム栄養プログラム(Team Nutrition)

米連邦政府が州政府、子どもの栄養プログラムを所管する地方行政、学校との連携により本プログラムを推進している。2007年11月現在、プログラムには全州から約3万5千校が参加している。

本プログラム強化のため、「より健康な学校の挑戦(Healthier US School Challenge)」として、給食内容や栄養教育などに関する一定の基準を満たす学校への表彰制度が実施されている。また、「地域健康施策」(Local Wellness Policies)として、政府補助で給食を実施する学校に対して、学校健康協議会の設置や給食プログラムの充実、栄養教育の実施、運動機会の提供、施策のモニタリング・評価等を盛り込んだ計画の作成・提出が義務付けられ、2007年末時点で該当するすべての学校が提出を行った。

●農場を学校へ(Farm to School)

カリフォルニア州での取組が徐々に発展し、2008年1月現在、プログラムには、34州にわたる約1万1千校が参加している。プログラム数も1000を超え、その内容は、学校と近郊農家の契約による地元農産物の給食への活用、農場での体験学習、農家による学校での調理実習・菜園づくりなどである。プログラムの実施により、学校給食への生徒の参加率の増加、生徒の野菜や果物摂取量の増加、農家の収入の増加などの効果が報告されている。

●ヘルシーピープル2010(Healthy People2010)

政府が一体となって2010年の達成目標に向けた取組を進め、最重要課題として肥満や運動があげられている。特に子どもに健康な生活習慣を身に付けさせるため、「総合的学校健康施策」(Coordinated School Health Policy)として、学校におけるそれぞれのニーズにあったプログラムの考案から実践までの支援を進めている。プログラムには、健康教育の実施や健康な食事の提供とともに、学校職員の健康に関する改善のための活動、家庭や地域の協力による活動なども盛り込まれている。

欧州における状況

英国

●健康な学校プログラム(National Healthy Schools Programme)

健康な食べ方や身体活動等の4つの主要テーマに関し、それぞれの学校がニーズを明確にし、必要な活動に学校全体で取り組むことを促すことをねらいとし、取組の質を保証するために一定の基準を満たすと評価された学校には「認可証」が与えられている。


ミネソタ州肥満センター

プログラム実施に関する全国目標は、2007年末までに、90%の学校がプログラムに参画し、全体の55%の学校が「認可証」を獲得することにあり、現在、90%を超える学校がプログラムに参画し、50%近くが「認可証」を獲得している状況にある。

●クッキングバス(Cooking Bus)

「食物に焦点」(Focus on Food)キャンペーンの主要プログラムとして実施され、子どもが積極的に取り組める方法で、健康な食生活や食の安全性、食材の選択、料理の方法などを子どもに教えることをねらいとしている。全国の小・中学校を訪問し、ワークショップ形式で行う。

クッキングバスは、外観は19トントラックだが、トラックを開けると幅8メートルのモバイルキッチンに変身する。キッチン内には、調理実習用スペースのほかに、一緒に食べる食卓用テーブル、学習用の大型テーブル、食に関する書物を収載した本棚がある。ワークショップの基本内容は、食材や栄養に関する教育及び調理実習であり、これらに必要な器材が備わっている。

クッキングバスの外観

モバイルキッチン(クッキングバスを開放した状態)

●育てる学校(Growing School)

学校の敷地の内外でカリキュラム横断型の学習として野外活動を実践するために幼稚園から中学校までの学校を支援することをねらいに、政府と500以上の機関や団体が連携して取り組んでいる。

育てる学校のウェブサイトでは、健康や安全に関する情報をはじめ、利用可能な農場、屋外活動に関する事例研究など、学校側が活用できるように様々な情報が提供されている。

●学校で提供される食物に関する基準(School Food Standards)

子どもたちが健康な食事をとれるように、学校で提供・販売される食物の質を改善するため、2006年に公表された新たな基準に基づき、給食(昼食)に続き、2007年9月には学内の自動販売機などでスナックやチョコレート菓子、炭酸飲料などを販売しないことになった。

また、2007年2月に導入された「よりよく食べ、よりよく活動する」(Eat Better, Do Better)キャンペーンでは、学校給食の質の改善について保護者に対する啓発にも取り組んでいる。

ドイツ

●「よりよく食べて、もっと身体を動かそう、とても簡単なこと」(Besser essen. Mehr bewegen. KINDERLEICHT)キャンペーン

連邦政府の支援により、学校、保育所・幼稚園、家庭を対象とした様々なプロジェクトが展開されている。具体的には、保育所に通う子どもの保護者やそこで働く職員を対象にセミナーや研修を行う「元気な子ども(Fit Kid)」、学校給食で健康な食事提供を行うことを推奨する「学校+食=最高の成績」(Schule+Essen=Note1)、国内の図書館で子どもの肥満に関する認識を高めるために子どもの栄養や健康なライフスタイルに関する本や雑誌を数多く保管し、子どもやその保護者に手軽に読んでもらう「図書館でもとても簡単なこと」(Kinderleicht in Bibliotheken)、ファミリーレストランを対象にした子ども用のメニュー開発・導入等に関するプログラムを実施する「願いことをしよう(Wünsch dir was!)」などが実施されている。

●栄養に関する技能証明書(Ernährungsführerschein)


肥満と自己についてのオンライン調査を取る

このプログラムは、栄養に関する知識や調理方法等について実践的な生活技術を身に付けることをねらいとして開始された。2007年初頭に試行的に実施され、5月以降、連邦政府の財政補助により研修を受けた指導メンバーが各学校におけるプログラム実施の支援を進めている。具体的な内容は、小学校3年生を対象に、6〜7回の講習で、健康な食事に関する知識、調理方法、衛生管理、テーブルセッティングやマナー等を学び、筆記及び実践試験に合格すると証明書が交付される。

栄養に関する技能証明書の講習内容

栄養に関する技能証明書

栄養に関する技能証明書を手に誇らしげな子どもたち

フランス

●味覚の週間(La Semaine du Goût)

毎年10月の第3週に実施される「味覚の週間」の2007年のスローガンは"喜びの祭典"である。週間中に料理を習って覚えたレシピを人に披露したり、子どもたちに教えたりする"料理のお誘い"、レストランや自宅で家族・友達と一緒に食事をする喜びを感じる"パーティーのお誘い"、おいしいものやこれまで味わったことのないものなど味の喜びを実感する"喜びのお誘い"の3つの"お誘い"がメッセージに込められ、"味わうことの喜び"に焦点があてられた。

子どもを対象にした味覚の授業、有名レストランで手ごろな価格でコース料理を提供する試みをはじめ、地方でも多様なイベントが開催された。

●味覚の授業(Les Classes du Goût)

フランス味覚研究所を中核として普及が進められている「味覚の授業」は、主に小学生を対象として全国各地で実施されている。

授業は全12回で、その内容は、6回目まで、味覚、視覚、臭覚、触覚、聴覚の五感を使って感じとることを覚え、自分自身を知ることを教える。感じとったことを言葉で表現できるようになると、食に関する発見が楽しくなると考えられている。7回以降は、好みが人によって違うこと、地方や文化によって特産物や料理が違うことなどを学び、最終回は、一緒に作り味わいながら、一緒に食べることの喜びを感じるとともに、テーブルの飾りつけや座席の位置への配慮、マナーなどを発達させる内容になっている。

●第2次全国栄養健康プログラム(Le Programme National Nutrition Santé)

国民の健康状態の改善をねらいとした本プログラムでは、肥満改善として、子どもの肥満を早期発見する対策が強化されている。また、学校における子どもの保健活動に関する指針が作成され、教育施設内で提供される食事(食品)の質の改善、食に関する教育活動の充実、教育関係者の活動の強化が盛り込まれている。

イタリア

●学校菜園プロジェクト(Orto in Condotta)

スローフード協会を中心とした味の教育を広めるためのスローフード運動の一環として、学校菜園プロジェクトが進められている。

プロジェクトは、子どもたちが農業や農産物にかかわり、それらに対する理解を深め、学校給食や食卓で消費する食物の質を向上させることをねらいとし、3年周期で食物や環境に関する教育を扱う。

デンマーク

●プロジェクト食生活のことすべて−生活を味わおう!(Alt om Kost‐smag for livet!)

国民の食生活改善のために食品や栄養に関する情報提供を行うことをねらいとしたインターネット上での情報キャンペーンである。"家庭における食"及び"学校・施設における食"のテーマの下、子どもの食に関する情報が提供されている。


減量のためにウーロン茶

具体的には、家庭向けの情報として、食生活の現状や望ましい野菜の摂取量等の解説、肥満傾向の子どもへのアドバイス等が提供されている。また、学校や施設向けの情報として、給食運営に関する基準が情報提供されるとともに、必要に応じて職員の訪問指導による給食運営の支援が受けられる活動も進められている。

スウェーデン

●健康な食習慣及び運動量の増加のためのアクションプラン(The action plan on healthy dietary habits and increased physical activity)

政府が2005年に公表したアクションプログラムでは、健康な食習慣などに関する目標が設定され、それらの目標を達成するためには、青少年の健康な生活習慣の形成のための環境づくりが必要であり、子ども全体に活動が行き届くよう、学校や保育所・幼稚園において実践すべき項目として、学校給食の指針の作成・公表、教育科目や内容の充実などが提示されている。

●学校給食の指針(Guidelines for a good school lunch)

従来の指針では、給食の栄養価が中心であったが、2007年に公表された新しい指針では、献立計画とともに、料理や食材の調達方法、食事環境や健全な食習慣形成に配慮した事項なども盛り込まれている。

こうした学校での取組については、地方自治体でも推進する必要があるため、学校給食の運営や評価など地方自治体における食生活施策プログラム推進についての指針も定められている。また、新しい指針の公表を契機に、学校給食の向上をねらいとする自主組織団体が、各学校における指針の取組状況をチェックし、チェック項目を一定以上満たした学校に証明書を発行する学校給食の認証制度を開始するなど、地域ぐるみでの取組を進めている。

アジア等における状況

オーストラリア

●健康で活動的なオーストラリアを築こう(Building a Healthy, Active Australia)

政府は、子どもの身体活動の低下と不健康な食習慣の改善に取り組むため、2004年に4年間かけて取り組む「健康で活動的なオーストラリアを築こう」を提唱した。この中では、「活動的な放課後コミュニティプログラム」(Active After‐school Communities Program)や「健康な学校コミュニティ補助プログラム」(Healthy School Communities Grants Program)のほか、家庭向けの情報提供として、健康な食生活の重要性の観点から野菜と果物の摂取量を増やすことを目的とした「2つと5つでいこうキャンペーン」(The Go for2&5TM Campaign)や、子どもの生活により多くの身体活動を組み込む観点から保護者の役割や対応も盛り込んだ「身体を動かそうキャンペーン」(Get Moving campaign)を進めている。

シンガポール

●身体の鍛錬と健全化プログラム(Trim and Fit Programme)

子どもの肥満を減少させることを目的に1992年以降実施されてきた本プログラムでは、学校関係者に対する研修や目標を達成した学校の表彰などを実施してきた。このプログラムは2007年で最終となり、2008年からは「包括的健康づくり」(Holistic Health Framework)が採用され、身体面だけではなく、精神面や社会面の健康にも網羅された活動を展開していくことになる。

2 食育の海外展開

平成19年9月に海外からの「食育」に関する積極的な問い合わせに対応するため、インド、インドネシア、マレーシア、メキシコのジャーナリストとの間で「食育基本法」や「食育推進基本計画」に関する意見交換が行われた。


独立行政法人国立健康・栄養研究所ではアジア各国の若手研究者を研究所に招聘し、研修及び共同研究等を行っているが、「食育」への関心は強く、自国での展開も含めて、その手法や成果が世界に発信されることを期待するとの意見があった。

外務省では、食育の海外展開の一環として、海外広報活動の中でも食育関連トピックを取り上げ始めている。具体的には、在外公館で配布している一般広報誌「にっぽにあ」、在外公館で上映や貸出をしたり、海外のテレビ局に無償提供している映像資料「ジャパン・ビデオ・トピックス(Japan Video Topics)」において日本の食文化の紹介を行った。

3 海外における食生活の改善等

世界では約8億5,400万人が栄養不良や飢えに苦しんでおり、このうち約8億2,000万人が開発途上国で暮らしていると言われている(出典:FAO「世界の食料不安の現状2006年報告」)。

このような窮状を改善するため、我が国は様々な形で取組を行っている。まず、開発途上国が直面する食糧不足を解決するため、二国間及び国際機関経由で、平成19年度には約197億円(平成18年度約127億円)の食糧援助を行うとともに、開発途上国の食糧増産及び貧困削減のため、二国間及び国際機関経由で、平成19年度約57億円(平成18年度約48億円)の貧困農民支援を行った。また、日本は国連食糧農業機関(FAO)に対しても、平成19年度約92億円(平成18年度約87億円)の分担金を拠出した。

さらに、我が国は、国際協力機構(JICA)を通じ、開発途上国の専門家や行政官を対象に食品検査・衛生管理・加工保存等の技術向上や、衛生・栄養分野の指導者育成のため様々な研修事業を実施するなど、開発途上国における食生活の改善にも取り組んでいる。

4 国際的な情報交換等

独立行政法人国立健康・栄養研究所では、韓国、フィリピン、ベトナム、トルコ、マレーシア等のアジア諸国や米国等の大学・栄養研究所等と研究交流を継続的に行っており、各国で深刻な問題となってきている肥満等への効果的な対処としての「食育」の考え方や手法、成果等について、発表や情報交換を行っている。

農林水産省では、国際的な飢餓や栄養不足の問題等に関する広報の一環として、平成19年度においては、途上国の農業や人々の生活水準向上に向けて活動しているFAOの役割についてや、アフリカの飢餓撲滅と農業・農村振興などをテーマに講演会を開催し、情報発信を行った。

食品安全委員会では、平成15年度から、食品安全確保総合調査「食品の安全性に係るリスクコミュニケーションに関する調査」の中で、諸外国におけるリスクコミュニケーション事例に関する調査として、諸外国へのヒアリング調査の実施、欧米の行政機関から食品安全のリスクコミュニケーション担当者を招いての国際ワークショップの開催等に継続的に取り組んでいる。

また、年に数回、海外から有識者を招聘して意見交換会や勉強会を開催しており、国際的に活躍されている方々から最新の知見を直接聞くことができる貴重な機会となっている。


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